文:塚田健
2009年10月1日15時27分
天高く馬肥ゆる秋――秋晴れの日が続く季節がやってきた。そんな日は、ぜひ星を見上げてみよう。いつもより多くの星が見えてくるはずだ。とはいえ、秋の 星空は明るい星の数が少なくどことなく物悲しい感じさえする。それもそのはず、秋の星座の星には1等星がひとつしかないのだ。だからといって星を見る楽し みが減るわけではない。
10月になると、宵の空の天頂近くに2等星三つと3等星ひとつを結んでできる大きな四角形が見えるようになる。「秋の四辺形」、またはそこにある星座の名前から「ぺガススの四辺形」と呼ばれる。夏や冬の大三角同様、秋はこの四辺形が、夜空を巡る目印となる。
ペガススの四辺形の西側の二つの星、シェアトとマルカブを結んで南に伸ばしていくと、明るい星がぽつんと光っているのを見つけることができる。秋 の星座唯一の1等星、みなみのうお座のフォーマルハウトだ。まわりに明るい星がないため、日本では「南のひとつぼし」などと呼ばれてきた。とはいえ、今年 は南の空低いところにマイナス2等星の木星が輝いているので、そこまで寂しいという感じはしないかもしれない。
続いて四辺形の東側の二つの星、アルフェラッツとアルゲニブを結んで南に伸ばしてみよう。くじら座のデネブカイトスを見つけることができる。くじ ら座は全天で4番目に大きな星座でなかなか全体像をつかみにくいが、こうして大体の位置を知ることができる。さらに、シェアトとアルフェラッツの並びを東 に伸ばしていくと2等星がいくつか見つかるが、これらはアンドロメダ座の星たち。なかなか秋の四辺形は便利だ。今回は、この秋の夜空のちょっと変わった楽 しみ方を紹介したい。
再びフォーマルハウトに目を移そう。実はこの星、太陽と同じように惑星を従えていることが最近明らかになった。木星と同じようにガスを主成分とす る惑星で生命が存在している可能性はほとんどないが、街中でも見えるフォーマルハウトに惑星がまわっているというのは、なんとも不思議な感じがしないだろ うか。
このような太陽以外の恒星のまわりを回る惑星を「系外惑星」という。今では350個以上も見つかっているが、フォーマルハウトもそのうちのひとつ。しかも、初めて「直接撮影された系外惑星」のひとつなのだ。
惑星は恒星と違い自分で光を出していない。そのため中心にある恒星の光にかき消されて、系外惑星を直接見ることは非常に難しい。これまでに発見さ れた系外惑星のほとんどは、まわりを回る惑星の重力の影響で中心の恒星がわずかにふらつくことなどを利用して間接的に発見された。系外惑星を直接観測する ことは長らく天文学者の夢であったが、そのことに初めて成功した恒星がフォーマルハウトなのだ。
秋の夜空には、さらに系外惑星についての「初めて」がある。
秋の四辺形のすぐ西、ペガスス座51番星と呼ばれる6等星がある。空が暗いところであればなんとか肉眼でも見えるこの恒星は、初めて系外惑星が見 つかった恒星として知られる。発見されたのは1995年10月。発見された惑星系は、木星のような巨大ガス惑星が中心の星のまわりをわずか4日で回るとい う、太陽系とはおよそかけ離れた姿をしていた。このような惑星を「ホットジュピター」と呼ぶが、現在見つかっている系外惑星の多くがこのホットジュピター である。なぜこのような惑星系ができ得たのか、太陽系は例外なのか、いまだ議論が続いている。
ほかにも、初めて大気の成分が調べられた惑星を持つHD209458(ペガスス座の8等星)や、フォーマルハウト同様惑星の直接撮影に成功した HR8799(ペガスス座の6等星)など、偶然にも秋の夜空には系外惑星を語るうえで欠かせない天体が多い。一見するとさびしい秋の夜空にも、たくさんの 面白い天体が隠れているのである。
系外惑星の存在は地球外生命が存在する可能性へとつながっていく。現在、コローやケプラーといった系外惑星探査専用の天文衛星も打ち上げられ、地 上と宇宙の両方から日夜、系外惑星の観測が行われている。系外惑星の研究は、現代天文学のホットな話題の一つなのだ。それは「私たち地球に住む生命は、こ の広い宇宙で孤独なのか?」という、根源的な問いへの答えを見つけることでもある。皆さんも、秋の夜長に空を眺めながらこのようなことを考えてみてはいか がだろうか。
◇塚田健(つかだ・けん)天プラ/姫路市
宿泊型児童館「星の子館」天体観測担当嘱託職員
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